フェス飯クラブ / Fesmeshi Club

「橋の下大盆踊り」で見つけた誰もが「住人」になれる粋な食文化

「橋の下大盆踊り」で見つけた誰もが「住人」になれる粋な食文化

粋でいなせ。「橋の下」にはそんな言葉がよく似合う。愛知県豊田市で行われている「橋の下世界音楽祭」のことだ。ここ数年は9月に開催されてきたが、今年は名前と時期を変更し「橋の下大盆踊り」として8月14日〜16日の3日間で開催された。


盆踊りといっても、TURTLE ISLANDや民謡クルセイダーズ、切腹ピストルズ、踊ってばかりの国などがそろう骨太ライブやトーク、それに子どもエリアもあって、規模感は数年前に来たときと大きく変わらない印象だった。


フライヤーにはこんなメッセージが散りばめられている。
「昼と夜、善と悪、あの世とこの世、あなたとわたし、すべての境界に耳を澄ませ」
「未だ泣いている人々は置き去りに、世界はいったい何を追いかけているのだろうか」
よく見なければ見落としてしまうほどの小さな文字から、「橋の下」の地中でうごめくマグマのような熱がひしひしと伝わってきて心打たれる。

この熱き「橋の下」では食もまた異次元。他のフェスで感じたことのない、粋な食文化に出会うことができた。


会場は矢作川にかかる豊田大橋の下を中心とした河川敷と、隣接する豊田スタジアムの一角。本部などのブースは竹や古材で組まれていて、トラスやパイプテントでつくられるフェスとはまるで違う、古い城下町のような光景が広がっている。


店構えや看板、広告に至るまで、効率重視の今の時代とは逆行するこだわりようで、手仕事の美しさや丁寧さに惚れ惚れする。
期間限定のはずなのにハリボテ感がないのは、それが装飾としてではなく、職人さんや出店者が実際に使うことで命を宿しているのかもしれない。


飲食ブースも同じで、とくに印象的だったのは多くのお店にその場で食べられるスペースがあったこと。

「カドヤ」というたこ焼き屋さんはなんと2階建て。1階と2階それぞれにカウンターがあって、そこにいる人たちの姿や笑い声も全部含めて下町情緒あふれる風景をつくり出していた。

カドヤ/たこ焼き 500円

涼しくなったら2階で食べようと思っていたのに、気づいたら娘が先に買ってきてご満悦。だしが効いたやさしい味で、すっかり気に入ってしまったようだ。


翌日は私も念願の2階席へ。その場で日本酒を頼むこともでき、少し揺れるけど自分も橋の下の風景に溶け込み、この粋な町の「住人」になれた気がした。




もうひとつ心をつかまれたのが「呑処 大大大」のファンキーなブース。昼間も十分存在感を放っているが、夜になると妖しく光りだし、まるでインスタレーションのよう。半畳ほどの小さなステージで突然始まるカラオケは大抵が昭和歌謡で、そのギャップにほっこり。もちろん客席は大盛り上がりだった。

Falafel Nagoya/ファラフェルラップ 1,500円

ここでは同じブース内にある「Falafel Nagoya」のファラフェルをいただいた。想定以上のボリュームにひるみはしたけれど、結果的には大正解。やさしい甘みのファラフェル、ババガヌーシュやフムス、野菜もたっぷり。何よりミントの爽やかさが効いていて、ペロリと完食してしまった。
 



翌日も猛暑は続いた。食欲がなくふらふらしていたら、風通しのいい草原エリアですてきなお店を発見。

生組(創造生活協働組合)/きしめん 800円

名古屋名物のきしめんを冷たいつゆでいただく。幅広の麺につゆにしっかりめの味付けで、つるっと入っていく。
「生組(きぐみ)」というのは「橋の下」で生まれた生活協働組合で、仲間と共働、共育、共生することで生きる力を育んでいるのだとか。祭から生協が生まれるなんて普通では考えられないけど、ここに集まる人の自主性の高さを象徴しているかのよう。


食器をセルフで片付ける仕組みもあって、みんなで場をつくっているのだということを教えてくれているような気がした。
 



 お次は「木組」で隣の席にいたお姉さんが絶賛していた松サワーを求めて「夜なり」へ。小さい店なのでさすがに……と思ったけれど、なかをのぞくとここにも小さなカウンター席が!

夜なり/松サワー 800円

この松サワーが、今回の衝撃グルメナンバーワン。喉を通るときにスーッと風が吹くような清涼感で、体が浄化されていく。柑橘のようなすっきりとした甘みがあるのに糖類無添加で、松葉だけを抽出したエキスなのだそう。さらに松葉エキスは自分たちで製造販売していて、愛知県刈谷市の「NATURAL BAL 松ってる」というお店も運営しているのだとか。近所ならぜひ行ってみたかった。
 
 

 
3日間フルで参加したけれど、食べられたのはほんの一部。ほかにも角打ちや行列ができるラーメン屋さん、スナックまであって、全部が「橋の下の城下町」を形成している。



普通のフェスでは食べ物を買っても多くはそれでおしまいだけど、ここではお店の人とお客さんの境界線が曖昧で、交流が生まれ、時間と空間を共有していた。そしてそれは風景となり、誰もが橋の下を形づくる何者かになれる。
「橋の下」での食には、愛おしくて温かい、粋な文化が生まれていた。


<text・photo=かっとー>

橋の下大盆踊り SOUL BEAT ASIA 2025
開催日:2025年8月14日(木)〜16日(土)
会場:豊田大橋の下(愛知県豊田市千石公園内特設会場)
https://2025.soulbeatasia.com